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ジャスパー・フォード「文学刑事サーズディ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!」


邦題は「文学刑事サーズディ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!」。休日にぶらっと寄った図書館で奇妙なシュルレアリスムぽい表紙絵と相俟って目を引く不思議な本だった。

さて現代日本で「ジェーン・エア」の知名度はどれくらいあるんだろう。「文学刑事」と「ジェーン・エア」に引き寄せられて立ち止まる私のような種類の人物は、まず書籍の購買率をあげる人間ではないような気がするから、せっかくこんなに面白くてもイギリスではない日本で売れるかどうか心配するのはお節介か・・・。
未来の話かと思いきや、そこは時間軸の違う現代イギリス。ただし、歴史はどこかで歯車が食い違って、クリミア戦争は100年以上も続いているし、ロシアには皇帝がいるし、特別捜査機関(スペシャル・オペレーションズ・ネットワーク)に文学刑事局(リテラリーディテクティブズ)という課がある。Sー30まであるスペックオプスのSー27が文学刑事で20以下の部署についての業務内容は秘密とされているが、時間警備隊やテロ対策局があるという。いやぁ、この設定だけでもこりゃぁなんだか面白げだとニンマリした方はこの本は手に取るべき。

シェークスピアワーズワースランボー、オースティンにブロンテ。文中に散りばめられたイギリス文学が今も絶えておらず、引用で日常会話ができる英語圏内の文学的浸透力はいいなぁと思う。一時的なアニメやゲームならできるとしても、日本文学でこれと同じことをするのはムリなんだろうなぁと。なにせ、どこから何をとったか共感さえも呼び覚ますのが、極一部を別にしても一般人には出来ない。

それはともかく、もとい主人公サーズディ・ネクスト。文学刑事歴8年にして、奇怪な力を持つ凶悪犯罪者とブロンテの生原稿を間にしてドンパチ。伯父さんが奇天烈な天才発明家だったり、父親が時間警備隊に追われている元時間警備隊だったり、10年前の恋人を忘れていなかったり、風変わりな登場人物達に取り巻かれるまま、ずるずると引き込まれて行く。その文字通り、本の中へ。

ジェーン・エア」を既読なら、ここでも現代とのちょっとした違いにはて?と思い、結末までが楽しくなることしかり。本国では続編がでているようだが、文字中毒にはこんな世界があったら面白いなというワールドゆえに、翻訳されることを願うのみ。


文学刑事サーズデイ・ネクスト〈1〉ジェイン・エアを探せ!

文学刑事サーズデイ・ネクスト〈1〉ジェイン・エアを探せ!