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-オシツオサレツ日々は過ぎる

マージェリー・アリンガム「霧の中の虎」

:Margery Allingham"Tiger in the Smoke"

初読みのマージェリー・アリンガム作品。
ミステリ黄金期の3大女流作家のひとり*1と言われているらしいけど、日本での知名度はほとんどない気がする。とはいえ、アリンガム。面白かったっす。
翻訳が理解しにくいのを過分に差し引いても、登場人物が誰しも非常に魅力的。生き生きと力強く、愛情をこめたキャラたちがたくさん。ストーリーも飽きさせることがないし、ぐいぐいと読ませる。
好きな登場人物ランキングが容易にできるヨ。
ダントツ1位はアブリル司祭(主人公の伯父。嘘を付かないのに読めない人)、2位がルーク(警部、仕事に打ち込むその様が格好いい。絶対惚れる)、3位がアルバート・キャンピオン(探偵、この人を主人公にしたシリーズのひとつなんだけど、回を経ているせいなのか、すでに脇キャラのような活躍。とはいえ家庭があって子供がいて妻を大事にする探偵って、いままであんまり読んだ事なかったなぁと)。

作中で珍しくドッグイヤーしたくなった箇所。

「魂というのは何かね。わたしは子どもの頃、魂というのは小さな、腎臓のマメみたいな形をした火の玉だと思っていた。どういうわけかわからないが。今わたしは、魂というのは自分が一人のときに一緒にいる人間だと思っている。どちらの定義も神学者には通用しないだろうが」

司祭のアブリルが、クライマックスも間近に犯人に対して問いかける言葉。自分が一人のときに一緒にいる人間って、こういうグチとかツラツラ独り言を呟いている自分のことだよなぁ、あぁこういう簡単な所に人間の本質は現れるんだなぁと、的を得ていると思った。

霧の中の虎 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

霧の中の虎 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

*1:あと2人は、アガサ・クリスティとドロシー・L・セイヤーズ