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-オシツオサレツ日々は過ぎる

ニック・ホーンビィ「アバウト・ア・ボーイ」 Nick Hornby "About a Boy"

うん、テンポがいけるよね。
読みやすいし、クスッと笑えたりして、しょーもないこと考えてんなと共感しつつ、ずいずいと頁を捲ってしまう。30代で独身で仕事しなくても親の印税で生活ができる、いわば苦労したことのない男。
ありきたりすぎて一通りのことは、すべて遊び尽くして、結婚なんて絶対しないし、子供も必要ないって、確信している。

そんなんで暇じゃないのか?
いや、暇だから、わざわざ離婚したシングルファーザーで子供がいる振りをしてまで、美人なシングルマザーを落とそうと、いい人を一生懸命演じる程に暇な人。

ところが、12歳の少年によって、その化けの皮は剥がされ、墓穴を掘って、彼はクールでもなければ、シンプルな生活でもない、かつて味わったことのない複雑な人間関係に巻き込まれて行く。

こんな仕事をしなくても生きて行ける男が、突然恋に落ちた女性にはじめの印象を後から言われたとき。
「なんにもしてなくて、からっぽな人だと思った」
なんだか30になったときに、切実にこう言われなくないと思った自分がいた。
とはいえ、この主人公の気持は結構私にはよく分かって、”からっぽさ”を共有できると思ったのも、確か。クソくらえと信条にまでして来た生き方が、いつしかあまりに単調すぎたことに気付いて行く男。

一緒に絡んで、一緒に成長する12歳少年のマーカスが、最後に”普通”になってしまうのが、微妙に寂しかったな。


アバウト・ア・ボーイ
ニック ホーンビィ Nick Hornby 森田 義信
新潮社 (2002/07)
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