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-オシツオサレツ日々は過ぎる

ジェイン・オースティン,セス・グレアム=スミス「高慢と偏見とゾンビ」二見文庫

Pride and Prejudice and Zombies by Jane Austen and Seth Grahame-Smith


つねづね原著の「高慢と偏見(以後PP)*1」は出会って以来ほんまにおもろい小説だと思っていたのだが、なにぶん19世紀の恋愛小説はあんまり世の中に出る機会がない。英語圏ならまだしも日本で普通の会話にでてくる可能性は映画化でもせん限り見込みなく、あったとしても通じる相手もごく限られている。


しかし、機会がない中とはいえPPも存分におもろいので、PPを現代版にした映画*2やドラマ化*3、続編を書いてしまった小説*4、さらには読書会まで開かれていたり*5、まあ巷には今でも数々流布物*6はある。


あるにはあれども、どうも現代人に対するアピールが足りないと思っていたのだが、その足りない要素を補うのが、まさか「Z(ゾンビ)」だとは思いも寄らんかった、この「高慢と偏見とゾンビ」(以後PPZ)。


タイトルみかけて笑った方、振り返って二度見した方、まー、その勢いのまま読んでみましょう。
損得勘定がうんぬんというよりも、えーほんまにバカらしくて、愛すべくな面白さです。


オースティン女史の原文にこんなに忠実でいて不誠実な中身なのは、あらすじ読んだだけでご想像がつきましょうが、想像以上になんかつっこみどころ満載*7で、普段ゾンビやら以ての外、ホラーなんぞ断固拒否を貫いていたのがわくわくしました、ワタクシw。


PPZは原著のいい部分を広げてここぞとばかりにゾンビを絡ませ、わるいとは言わないけれどちょい読んでいて欠伸のでる世間話やらをばっさりカットすることで、すっきりわかりやすい。PPを読まなくても楽しめる、お手軽さ。もちろんPPを読んでいた方が多々のつっこみどころで、だんだん楽しくなって座頭市を見なおしたくなったり、ちょっとカリフラワーでも茹でて道に置いてみようかとか思うはず。


なにはともあれ、ゾンビがこんなにも古典との潤滑油になるとは思いもよらんかった展開。ペンバリー館があんな!!とか、カリフラワーがそんな!!とか変な東洋趣味がちりばめられたゾンビワールドが炸裂すれども、これは恋愛小説だったり、格闘小説だったりするわけだ(けっしてホラー小説ではない気だけはする)。登場人物も原著どおりとは行かず、なかなかにくい。ウィッカムはもともと自業自得だからいいにせよ、シャーロットもそーくるかとか。とはいえ、ベネット母はいつでもどこに出ていても最強な普遍人物でした*8


楽しみ方は千差万別ですが、より多くの方がこの本を堪能して、ぬかるんだ柔らかい土から多くのPPZ完走屍者が這い出て、乗じてPPも世に広まりますよに。
よんだら、こちら(ゾン子&カルパちゃん∪・3・∪ ×3 (@ppz_jp) | Twitter)をのぞいて、よりこの本をたのしむべし。


高慢と偏見とゾンビ ((二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション))

高慢と偏見とゾンビ ((二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション))

*1:小説はちくま文庫岩波文庫で上下、河出文庫新潮文庫では分けずに一冊。新潮だけ「自負と偏見」のタイトルを通している。読みやすいのはちくまだけど、最初に読んだのは新潮版。上巻のまったりムードから下巻のジェットコースター展開がクセになる

*2:有名どころではヘレン・フィールディング著「ブリジッド・ジョーンズの日記」ヴィレッジブックス刊、レニー・セルヴィガー主演で映画化もされた。続編に「ブリジット・ジョーンズの日記 切れそうな私の12ヶ月春夏・秋冬篇」がある。こちらも映画化してる。あとは1998年の映画「ユー・ガット・メール」もPPを下敷きにしている。ノーラ・エフロン監督・製作・脚本、メグ・ライアントム・ハンクス出演

*3:BBC製作の302分忠実ドラマが有名。ダーシー役はコリン・ファースを確立した。Amazon.jpでも現在¥ 7,433という高額設定なDVDであるにもかかわらず売れているようす。コメント数2/7現在75件。

*4:エマ・テナント著「ペンバリー館」、ちくまで文庫化されて現在は「続 高慢と偏見」のタイトルで出版されている。更にこの続きである「リジーの庭―『自負と偏見』それから」という本もある

*5:カレン・ジョイ ファウラー著「ジェイン・オースティンの読書会白水社刊/2007年にロビン・スウィコード監督で映画化

*6:キーラ・ナイトレイ主演で2005年に映画化された「プライドと偏見」も新しいところ

*7:多くありすぎて、とてもこの場を借りて、すべてを詳らかにはできませぬな。

*8:ベネット母って、いつでもどの時代でも母はああいうもんだと苦笑するなにかがある