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-オシツオサレツ日々は過ぎる

クライヴ・バーカー「アバラット」

異世界へ入り込んだ少女キャンディの冒険譚。

こう書くと、ファンタジーにはどこにでもある在り来たりな話になってしまうが、読んでみるとアバラットアバラットであり、それ以外のなにものでもない。

図書館であっ、これって結構面白そうってなにかで見た本だと、見つけたアバラット。透明なカバーに油彩の濃い青を基調としたどことも知れぬ風景。白く浮き上がった英文字の題字は、巧妙なフォントで上下逆さにしても同じくアバラットと読める。なんとも重厚で頁を開く前から、こいつは独特な雰囲気があった。

頁を捲って捲って読みすすめると、自分の周りがアバラットであるかのような気がしてくる。
著者バーカーの手による挿絵は一点一点が油絵で非常に個性的だ。絵があってストーリーがあって、物語が動く。出てくる登場人物は人でない形が多い。ジョン・ミスチーフにしても、頭に小さい兄弟がくっついていたり、半魚人やら猫男やら、たぶん普遍な言葉でこのキャラクターたちを説明するのはむずかしい。著者のことを奇才と表すのに只管頷首。個性的な極めつけは、キーを図らずも持ってしまった少女を追いかける敵キャラたち。次頁を捲った途端に、クリストファー・キャリオンが出て来たときには、あまりにグロテスクでビクッとして本を取り落としそうになった。

でも、これはホラーじゃなくて、やはり冒険譚。
興味深げな少女の謎と、24時間に分かれた不思議な島々。なによりも敵も味方も含めて、作り込まれている彼らは感情移入しやすい。敵は敵で憎い対象なのだが、弱い一面や恋愛に思いを馳せる様子があって(容姿が限りなくグロくなければ)ホロッとしてしまいそうになったり、一筋縄じゃない故にこれがまた面白い。

惜しむらくは、まだまだ冒険が始まったばかりなこと。続々と刊行してくれることを望むが、著者が絵を描いた上で進んでいる話らしい。一巻目が出るのも時間がかかった様子。今後はいつなんだろう。とはいえ、クオリティが高いのでこのままな感じで、期待。図書館で借りただけだけど、この本は高いけどお金を出して買ってもいいなと思う。シリーズされて、ズラーッと(そんなスペースがどこにあるかは疑問だが)本棚に並べたら、ヨダレでるな・・・

アバラット

アバラット