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-オシツオサレツ日々は過ぎる

カズオ・イシグロ「わたしたちが孤児だったころ」

何年か前カズオ・イシグロの名前を聞いたとき、見向きもしなかったのに、ふと文庫になって手に取った「わたしたちが孤児だったころ」のあらすじで、両親が幼い頃に行方不明になった主人公が探偵になるというのにそそられて、思わず会社の側のABC*1で買ってしまった。


この著者は文章を書くのがとても巧妙。
すらすらと読めるのに、味わい深く、心に刻まれる場面場面。
そして、先の気になるストーリー展開。
会社の行き帰りに電車で読み出したら、会社に行くのも家に帰るのもちょっと待った!と思う程、続きが気になってぎりぎりまで本を片手に持ち歩き、各所で開いては閉じを繰り替えした。


主人公の一人称で語られる物語は、当事者でない読者にとっては主人公が歩む方向を楽観的に考えられず、やはりと予想していたような結末の落ち着きと、そうだったのかという過去のタネ明かしに、静謐ながらも衝撃を受ける。過ぎ去っていく時間というものを、時代は違えどいつのまにか主人公と同じように、小さい頃の友人だったり、母だったり、父だったり、半数して回顧して、図らずも感傷的な気分になる。大人な小説。
わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

*1:Aoyama Book Center