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-オシツオサレツ日々は過ぎる

司馬遼太郎「坂の上の雲<二><三>」

戦争なんて愚かなものだと、とにかくばっさりと認めていなかった。
人殺しに良いも悪いもあるわけがない。
とにかく戦争をする国は野蛮で愚かだと、戦後育ちの私は思い込んでいた。


それが「坂の上の雲」を読んでいくと、私はなにもわかってなかったんだということに気づく。
確かに戦争はいい点など何もない。
愚かで野蛮なことにも変わりはない。
どちらの側にも主張があり、視点が違えば立場も意見も変わるわけで、たとえ客観的な立場から戦争論を吐かれても、当事者たちの思いを理解できることなどできない。
ただ、この物語を通して、明治に起こった大きな二つの戦争である日清・日露戦争をみると、そこに日本人の気概があんなに盛り込まれているとは知らなかった。いまの日本人と人種さえ違うんじゃないかと思うほど、そこに描かれてる彼らの生き方は、いまと違うと思う。


時代の流れである帝国主義に便乗して開国したばかりで、満州や朝鮮を支配しようとする日本を思い上がりの極みで愚かだと思っていたし。


開戦の裏に、列強の侵略で日本がなくなるかもしれないと危機感を抱いていた政府があったこと(日露戦争開戦を政府が決めたとき、大国ロシアに日本が勝てるとはとても思えず伊藤博文が泣いただろうというエピソード等)、植民地になるまいと立ち上がったものの、明治は始まって20年前後しか経ておらず、まともな軍艦も騎兵隊もなかった日本が戦争をしかけようというのは並大抵のことではなかったろうということ、様々考えてみても、どちらの戦争にも勝利した日本は奇跡に近い。


たられば、だが、この明治にこの戦争がなかったら、日本はどこかの植民地になっていたかもしれないと思って、なんだか茫然とする。
とかく、すでに亡いこの時代の日本人に改めて真摯に合掌。彼らがあって、いまこの大地はあるわけで、慈しみ、大事に生きていこうと柄にもなく、殊勝な気持ちになる。