PUSHMIPULLYU

-オシツオサレツ日々は過ぎる

恩田陸「ライオンハート」

どっちが後だか先だか今でも知らないし、調べる気というのもないが、少なくともこの題名に私はスマップの歌の方が先に思い浮かんだ。読み終わって何か書き留めておこうと思っている今も、ライオンハートの歌がグルグルバックグラウンドミュージックになっている。

恩田氏はケイト・ブッシュの”ライオンハート”からこの話を書き始めたとあとがきにあったが、本屋で見つけた当時(2001.1)に流行っていたアイドルグループの同名の歌から私がこれを読み始めたのも、何かの縁ではないかと多少思う。

各章の冒頭にカラープリントされた絵と内容が、しっくり絡まっていて、非常にため息がでる。物書きの方はどうしてこう、ひとつの絵や音楽や文章などから触発されて、更なるモノを生み出せるのだろう。生み出せるが故に物書きたるのだろうけど。
特に文中では「春」がとても印象的だった。ちらっと見ただけでは全然気づかなかったミレーのその絵が、章を読み終えると本当のミレーの思惑などとは違うとわかっていても、不思議なノスタルジーと嬉しさを含んだものに見えた。ミュシャの絵からくる「イヴァンチッツェの思い出」もまた違う味と盛り上がりで面白い。どこがどう繋がっているのかわからない、この世界とは不思議なものだとたまに思うが、その雰囲気。文中の誰が誰でどう二人と繋がっているのか、また、読み進めるといちばん最後の人物解きに幸せになった。

スマップのファンでもないが、スローな心地よいテンポで流れ、愛する相手を大事に思う心を歌うこちらと、不思議にすれ違いながらも出会いを繰り返し、愛し合っていく男女のこちらの”ライオンハート”も、私はどちらも好きである。

ライオンハート (新潮文庫)